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瞳は涙を浮かべ、歯は唇を食いしばり、心に悲しみが渦巻く。 鉛のように重い足はただ前へと進み、行く先はどこかと探し求める――― I'll cry until a tear withers up―後編― 唯は俯いたまま横を歩く弘樹に促されながら歩いていた。 弘樹には唯の表情が見えない。 だが一つだけわかることがあった――あれから唯は一粒たりとも涙を溢していない。 ほんの二週間前だった。 いつも通り昼食を唯・洋・弘樹の三人とっていたときにした“ある会話”がきっかけとなって、唯は“哀”のいう感情を押し殺すようになった。 元々相沢唯という少女はコロコロと表情を変えて周りの空気を和やかにさせるような子だ。 もちろん哀という感情だって隠すことなく出していた。 それは時々回りの人たちを困らせてもいたが、少なくとも外間弘樹、彼にとって彼女がそうしていることで一種の安心を得ていた。 ――唯は大丈夫。いつも通りだ、と。 しかしここ二週間は笑顔やしかめっ面…それこそ喜・怒・楽の感情を表に出していても、“哀”の感情だけは全く見せなかった。 高校に入ってクラスメイトには涙を見せなくなったが弘樹には見せていたのに、唯が絶対の信頼をおいているその弘樹にさえも隠すようになったのだ。 いつか悲しみで唯自身が変わってしまう、と心配していた弘樹は、今、この場でも必死に泣くまいとしているであろう唯の姿にさらに心配の念が膨らむ。 もう彼女の中に積もりに積もった“哀”は我慢しきれないほどなはずだった。 弘樹「唯…」 弘樹が唯にだけしか聞き取れないぐらい小さな声で言う。 その言葉と声音には心配の念がひしひしと伝わってくる。 唯は袖でぐいっと涙を拭うとぶるぶると頭を振り、垂れていた頭を上げ、弘樹の目を見た。 唯「さーて!せっかくサボったんだからカラオケは歌い放題決定だね!ひろくんもバンドの練習になるよー」 言葉と共に添えられた笑顔、それは痛々しいものだった。 少し充血し、涙で潤された目。 まだ微かに残る涙の跡のある頬。 そして震えた唇、そこから出された震えた声。 弘樹は目を細め、無理に明るくする唯に「そうだな」としか言えなかった。 空元気の唯に引っ張られるようにして入ったカラオケルーム。 唯はちゃっちゃと受付をし、リモコンを持ったまま何を歌おうかと選曲に夢中になっている。 その間に店員が飲み物を運んできて「ごゆっくり」とやる気のない声で言い残し出て行った。 唯は未だに分厚い曲集を抱えたまま。 弘樹はただそんな唯を見ていることしかできない。 彼女は素直でありながらとても頑固なのだ。 自分がどうこう言ってもどうにもならないことを弘樹はよく理解していた。 それ故、何もできないのだった。 弘樹はおもむろにもう一冊ある分厚い曲集を手に取り、パラパラとページを捲る。 目に付く曲などない、歌う気分ではないのだから。 そうわかってはいてもパラパラとページを捲り続けている弘樹。 その行為を止めたのは唯だった。 唯はぱたんと曲集を閉じ、選曲番号を入れた。 一、二秒だけ間が空くとイントロが流れてくる。 弘樹は静かに流れてくる旋律と画面に映し出された曲名にハッとした。 そう、この曲は唯が好んでいた、弘樹もよく聴かされていた曲だった。 唯がいつも放課後に教室で弘樹を待っている時に口ずさんでいる曲。 そして「曲と相沢の声が合ってて綺麗だ」と洋が唯に言ってくれた曲でもあった。 ――涙がこぼれ落ちないように 滲んだ空を見上げているよ 人はどうして想いのままに 生きられないの 泣けない弱さも 泣かない強さもいらない 願いをかける流れ星を 探してみるけれど 夜明けがもう早すぎて 見付けられずにいるよ―ー ――君の事思い出す日 なんてないのは 君の事忘れた時がないから―― 二人掛けのソファの端で靴を脱ぎ、膝を抱え込んで目を瞑りながら歌う唯。 洋の言ったとおり、唯の優しく、どこか切なさを漂わせている声が曲にぴったりだった。 弘樹も唯と同じように目を瞑り、歌に聴き入っていた。 唯の声がしなくなる。 油井が歌う“浜崎あゆみのHANABI”が終わった。 弘樹は瞑っていた目を開け、唯を見る。 その瞬間、弘樹の表情は曇り悲しそうな、それでいてどこか安心したような表情を浮かべた。 唯は静かに涙を流していた。 その姿は切なく、そしてどこか美しかった。 ぽろり、ぽろり――― 大声を上げて泣くわけでも、しゃっくりを上げながら泣くわけでもなく。 ただぽろりと涙を流すだけの唯。 涙が唯の頬をゆっくりと伝う。 弘樹は唯の隣に静かに座り、唯が何か言うまで待った。 機会から流れ出す音楽だけで沈黙が続く。 そんな状況が何分も経って、未だ静かに涙を流す唯が弘樹の方を向いた。 唯「…ひろくん」 少し掠れた唯の声に弘樹は沈黙という形で答えた。 だが唯には聞こえていた。 心の中で弘樹が「なに?」と言ったのを。 唯「ひろくん。あたしね、好きだったの」 弘樹「うん」 唯「洋のこと、大好きだったの」 弘樹「うん」 唯の声はだんだんと震え始め、頬を伝う涙も大きく、ぽたぽたとこぼれ落ちていた。 時折聞こえてくるヒクッ、ヒクッ、としゃっくり交じりの呼吸。 弘樹は唯の頭を抱え込み、優しく抱き寄せた。 それが合図となって唯は弘樹に縋りつくようにして声を上げて泣き始めた。 弘樹は唯を抱き寄せたまま宥めるように唯の頭を撫でた。 唯「嘘なんてなかっ、たんだよ。ほん、とに…大好きだっ、た…っ」 弘樹「…」 唯「洋がね。目を細めて優し、く笑うのが…好き、だったの」 弘樹「…」 唯「怖い、て…洋はそ、言われて…たけど。ほんとは、すごく…っ…優し、て。あたし、知っ、てたよ…っ!」 弘樹「…」 唯「それに、ずっ、と気づいてたもっ…!洋、が…いちば、優しい目、するのはあの子だけだ、て…気づいてたも…っ!でもどうしよ、もないぐらい…好きだ、ったんだも、…叶わないのだ、て、知って――!」 途切れ途切れに一生懸命に言う唯の言葉を弘樹は唯をぎゅうっと力強く抱きしめて、「もういい…もういいよ」と言って遮った。 唯もそれ以上言葉を続けようとはしなかった。 その代わり溜め込んでいた想いのすべてを吐き出すようにして泣き始めた。 カラオケルームに唯の切なく苦しい、泣き叫ぶ声が響き渡っていた。 あれから一時間――唯と弘樹は店を出て、ただ家に続く道を歩いていた。 唯は学校を出たばかりの頃を同じように俯き、弘樹はそんな唯の隣で唯に歩調を合わせて歩く。 弘樹は唯から目を放し、前を見ると「マジかよ…」と唯にも聞こえないぐらい小さな声で息を呑むようにして言った。 前方から二人組が歩いてきている。 見覚えのある二人組だった、そして弘樹が今最も会いたくない二人組でもあった。 徐々に徐々に縮まっていく二人組との距離。 ついに二人組も唯と弘樹に気づいたようだ。 二人組の一人――比嘉美咲がニコリと愛らしい笑顔を浮かべて、唯たちの元へともう一人のR手――洋の手を引いてやって来た。 美咲「外間くーん!相沢さーん!授業サボってデートしてたの?」 クスクスと笑いながらからかうように言う美咲。 その声に俯いていた唯は顔を上げ顔面蒼白になり、弘樹は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。 美咲「あっ、もしかしてお邪魔だったかな?ね、洋?」 洋「…」 弘樹「俺たちそんなんじゃないからさ」 何も言わない洋の目に映るのは目を赤く腫らした顔面蒼白のままの唯だった。 油井の目にも洋の姿が映る。 唯と洋の二人は黙ったまま見つめ合っていた。 そんな二人をよく思わないのは当然美咲で。 美咲ムッとした表情を一瞬チラつかせたが、すぐにいつもの愛らしい笑顔に戻っていた。 だが弘樹はそれを見逃さなかった。 普段、美咲が優しくて、人形のようなぱっちりとした二重の目を弓なりにして可愛らしく笑うことを弘樹は知っていた。 しかしそれでも今の弘樹にとって美咲は憎いだけの存在でしかなかった。 たとえ唯自身が美咲をそう思っていなくとも。 弘樹の普段とは違った視線に気づいた美咲は助けを求めるかのように洋の腕にしがみついた。 それを目にした唯は悲しみを隠すように微笑んだ。 美咲「洋ー、あたしたち邪魔になっちゃうし行こー」 洋「…ああ」 美咲が洋の腕にしがみついたまま行こうとすると洋がそれを制して「先に行ってて。後で行くから」と言う。 美咲は洋の言葉に渋々頷き、「早くねー」と言って、唯の横を通り過ぎていった。 完全に美咲が会話の聞こえないところまで行ったのを確認すると、洋は唯の前に立った。 咄嗟に弘樹が「おい、洋!」と声を上げるが、洋は弘樹を一瞬だけ見ただけですぐに唯に目線を戻した。 洋「…相沢」 唯「な、に?」 泣き叫んだせいか唯の声は掠れたままだった。 洋は目を細めて唯を見た。 その目の細め方は決して唯の好きな洋の笑顔が作られるときにするものとは一緒ではなかったが。 洋「相沢…ごめん」 唯「な、なにが…」 洋「一つはそんなふうにお前を泣かせたこと」 唯「べ、つに…洋のせいじゃないよ」 洋「もう一つは相沢の気持ちには答えられないこと。俺は…あいつが好きだから」 唯「知ってるよ…洋はちゃんと報告してくれたもん」 洋「ああ…だからそのことについても謝りたい。傷つけたかったわけじゃないんだ。俺は―――」 洋の言葉に少しずつまた涙目になっていく唯を見ていられなくなった弘樹が「もういいだろ!」と洋の言葉を遮った。 しかし洋は「悪い。でも言わせてくれ。…相沢、ごめんな」と頭を下げてそう言った。 唯は「いいよ。わかってたことだもん…ただ一つ言わせて」と声を震わせながら言う。 弘樹はその様子を黙って見ていることしかできない自分を情けなく思った。 同時に声を震わせながらも何かを言おうとしている唯の邪魔をしたくない、とも思っていた。 洋が「なに?」といつもの調子より優しく言う。 唯「自分を、責めないで。誰も悪くなんか、ないんだから…。洋は悪くなんかないよ。洋は…優しいよ、…だから自分を責めないでね」 その言葉に洋と弘樹は目を見開いて唯を見た。 二人の目に映った唯は涙を流しながらも優しい微笑みを浮かべていた。 唯の言葉、唯の姿に、何故唯を好きにならなかったのだろう…と。 こんなに自分を想ってくれる人がいるのだろうか、とつくづく洋は思った。 だが自分の気持ちには嘘をつきたくないという強い思いが洋の中で渦巻き、洋は唯の目を見ながらしっかりと頷いてみせると美咲の元へと歩いて行った。 唯はその後ろ姿を決して見ようとせず、ただ前を見て家へと続く道を再び歩き始めた。 何とも言えぬ表情をしながら弘樹もそれに続いた。 二人がそれから口を利いたのは隣り合う互いの家の前に立ってからだった。 唯に何と声をかけたらいいか戸惑っている弘樹に唯が「今日はありがとう」と言った。 それでも弘樹は何も言えずに首を横に振っただけだった。 そんな様子をクスクスと控えめに笑う唯。 それはまるでいつもの唯のようだった。 しかしそんなはずがないと弘樹はわかっていた。 本人は隠し切れているつもりだろうが物心ついた頃から共に過ごしてきたのだ。 ましてや自分の好きな人だ。 そんな人の変化にはどうしても敏感になってしまう。 たとえその変化が自分の幼馴染に振られてしまったからだったとしても。 弘樹「唯、今日一人で大丈夫か…?」 唯「一人なんて慣れてるよ。いつもお母さんたち帰ってくるの遅いからね。大丈夫だって」 弘樹「違う、俺はそういうことが言いたいんじゃなくて」 唯「大丈夫。わかってる、大丈夫だよ」 にへへ、と笑う唯に弘樹はこれ以上言葉をかけることができなかった。 唯が苦しい思いを隠してまで笑っているとわかっていても、そんな唯の姿に思わず瞳を潤わせる弘樹。 唯は「バカだなぁひろくんは。ひろくんが泣くことなじゃないでしょー」とおどけたように言う。 そしてばしっと思い切り弘樹の背中を平手打ちすると唯はそのまま自宅の鍵を開けドアノブを回し、弘樹に背を向けたまま「それじゃあまた明日ね!」と自宅に入っていった。 唯は自室に入ると窓からそっと外の様子を見た。 弘樹が涙を堪えながら自宅に帰っていく姿を目にし、ぽつりと「ひろくん…ありがとう。ひろくんに頼りっぱなしでごめんね」と漏らした。 もちろん弘樹本人に聞こえるはずもないが。 その後、唯はMDコンポの電源を入れ音楽をかけるとベッドに仰向けになった。 すぐに唯の歌声があの曲と重なった。 それは隣り合わせにある弘樹の部屋にも流れてくる。 やはり唯の歌声は優しさと切なさを感じさせた。 さっきと違うのは歌声と共に流れるすすり泣く声。 二つの部屋に響き渡るは泣く歌姫の声だけだった―――。 前編 《END》 ***後書きと書いて反省と読む*** 如何でしたでしょうか? あたしとしては不完全燃焼なわけですが…。笑 この話、とっても弘樹さんの夢に思えますが洋さん夢ですから!笑 文才がないあたしの書く夢なのでサブキャラを出さないと、みたいな。苦笑 次に洋さんのを書くときがあったら甘くします、多分。 洋さん相手だとどうしても甘くできない…自分がそうだからなのかな?何 まあとにかくこれからもヨロシクです!(写メ日記のほうもヨロシクです!/コメントも待ってますw) また更新なしの日々が続きますが、すれ違いざまにのほうもまた終わっていないので(それどころか終わりが見えない…汗)完全放置プレイはしないつもりです!笑 何か誤字・脱字等を発見された方はコメントにてこっそりをご報告していただければ幸いでございます。(ぺこっ) 最後にタイトルの意味ですが、「涙が枯れるまで泣いてやる」です。 管理人、頭がすごく弱いので間違っていたら教えてください。笑 それではまた!(・∀・)ノシ★ 本作品では「浜崎あゆみさんの"HANABI"」の歌詞を一部引用させて頂いています。 |
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??????? 2006/05/05 19:46 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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えーーーーーーっ!!!洋くん彼女いたの(゜゜)!? 前編で洋くんを呼んでた、比嘉って人がもしかして彼女だったの!? めちゃめちゃ予想もしてない展開だわー>< 洋くんが別の人好きだなんて考えもしなかったし、洋くんか弘樹くんのどっちかとくっつくかと思ってた〜!笑 最後まで、まさかね?まさかね?って読んだよ〜!ん〜切ないわー・・・(:Д;) けどほんと來華ちん文才あるよね〜!!! |
ゆうは 2006/05/05 03:51 |
美咲め〜!!嫌いだな〜こんな女!あ〜女ってイヤだ〜!笑 |
うみ 2006/05/08 00:21 |
いまさらながら、小説読みました(笑)YOH編のやつはさ、授業中に読んだんだけど、3人の気持ち考えながら読んでたらかなり切なくなって、まわりから見たら変な顔だったはず(笑)こいつ何見てんだ、みたいな(笑)弘樹、不憫(泣笑)でも、絶対実物もこんなやさしいんだろうなぁ〜〜(〇´ε`〇)読みおわったあと、ずっと頭ん中でHANABIが流れてたよ(笑)セツナス(´・ω・`)すれ違いざまに、は、なんてあたしおいしいんでしょう!!笑 みんなに呼び捨てされてさぁ〜笑 やぁまには抱きつかれるわ、弘樹の助手席には乗れるわ、しまいにゃアド交換!現実になれっ!笑 |
さりー 2006/05/13 00:00 |
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